河豚の季節 2010 12 12
書名 有機化学のしくみ
著者 齋藤 勝裕 ナツメ社
冬の寒さが厳しくなると、
河豚(ふぐ)の季節がやってくる。
この淡白な味を愛する日本人が多い。
それが、国民性や文化を象徴しているのかもしれない。
しかし、河豚には、毒がある。
河豚に含まれる毒は、テトロドトキシンである。
この本によると、
テトロドトキシンは、「エーテル結合を多く持ったケージ構造である。
構造を決定したのは、日本人有機化学者であった。
日本が天然物有機化学のメッカであることを世界に示した業績の一つであろう。
天然ふぐは毒を持つが養殖ふぐには毒がないことを発見したのは、
割烹の板前さんであるという。
経験的な発見である。
この事実は、ふぐは自分で毒を作るのではなく、
外部から取り入れるものと考えることで説明される」という。
最近、有機化学がブームである。
しかし、有機化学を学ぶとなると、著者が認めるように、
「舌を噛みそうな名前が目白押しである。
しかも、ムカデのような構造式。
そして、とどめは、有機化学イコール暗記科目のレッテル」となります。
日本人には、優れた有機化学者が多いですが、
国民の大半が、有機化学は苦手であると言えるでしょう。
著者は、正直な人で、
「責任のすべては、有機化学にある。
いや、有機化学を専門とする有機化学者にある。
有機化学を、もっと専門外の方にも、わかってもらえるようにする努力を怠ってきた、
少なくとも、全力を注いでこなかったと言わざるを得ない」と告白します。
この本は、有機化学の入門書としては、力作であると思います。
途中で、あきないように、あるいは挫折しないように、様々な工夫があります。
さて、私は、別の目的で、この本に興味を持ったのです。
それは、分子の構造というと、「想像の世界」と思っていましたが、
最近は、電子顕微鏡の発達で、分子の構造を見ることができるようになったのです。
つまり、分子は、「想像の世界」から「観測できる対象」になったのです。
それが、分子の顕微鏡写真(塩素化銅フタロシアニン)です。
まだまだ、一部の分子だけでしょうが、これは画期的なことです。
(注)
ふぐは、淡白で美味ですが、
内臓などに毒を持つものが多いので、
ふぐをさばくには、「ふぐ料理師資格」が必要です。
条例によって、都道府県が許可した「ふぐ調理師」が、
「毒を含む部分」と「食用が許可された部分」を分離しなければならないと定められています。